彩古堂
             

 
 表具の裂地・名物裂(金襴)
     
    名物裂の多くは鎌倉時代から江戸中期頃にかけて舶載された。茶の湯の発達に伴って表装や茶入の仕服や茶杓の袋、扇子の袋、数寄屋袋、服紗などに珍重され、茶人や上級武士が名称をつけて愛玩した裂のこと。その種類は、印金・金紗・金襴・銀襴・緞子・間道・錦・海気・風通など中国の宗・元・明・清時代の染織品と、モール・更紗など南方諸国から南蛮船によって輸入されたもの。400点近い名称が伝わったが、残念なことにそのうち現存するものは200点程度である。小堀遠州や松平不昧によって表装裂と茶袋裂類の整理が行われ、松平不昧が名称と内容を『古今名物類聚』を著した。それぞれの裂の名称は大名や寺社・豪商・遊女・太夫など所有した場所や人名にちなんだものや、名物茶器にちなんだもの、文様名によるもの、歴史的事象に由来するものなどがある。
     
   永観堂金襴【えいかんどうきんらん】
     京都 禅林寺 永観堂に伝わる九条袈裟が本歌とされる。白地角龍金襴で白地部分を入子菱文に織りだし、身体をくねらせた横向きの龍がやや馬蹄形に金糸で表わされている。永観堂角龍金襴。
 細かい椿文が全面に織りだされているものは、永観堂山茶金襴。
   
   江戸和久田金襴【えどわくたきんらん】 
     和久田金襴の一つ。縞に丸文を金糸で表わしたものや、縦縞に細い横縞を加えて木瓜(もっこ)形の中に吉祥文様や花鳥、獣文様を織りだしたものがある。
   
   角龍金襴【かくりゅうきんらん】
     名物柄。綾地、繻子地に小型の蛟龍文を段に並べ、左右だけ、または上下ともに逆向きにして、経糸の位置を半分ずらして交互に段を織り重ねたもの。地色には紺・丹(に)・紫・萌黄などの濃色系と、白・白茶・薄茶・黄茶などの淡色系とがあり多色。龍の大きさ、形、地色、配列の異なるものもある。類裂に白地の「永観堂角龍」「中川角龍」、萌黄地の「船越角龍」、紫地の「春藤(しゅんとう)角龍」などがある。
   
   鶏頭金襴【けいとうきんらん】
     無地の綾織に鶏頭に見立てた草花文が段違いに並べられたもの。草花文の大小により「大鶏頭」、「中鶏頭」、「小鶏頭」と呼び分けられる。花樹が根づいた根元や土壌、地面が文様として表わされているところから作土(つくりつち)文と呼ばれる。
   
   角倉金襴【すみのくらきんらん】
     京都の豪商で土木家の角倉了以(1554~1614)が愛用したと伝えられる裂。綾地に金糸で大きな花兎文様を織りだしたもので、後ろを向いて片方の前足を少し上げた兎と花樹の写実的で優美な文様が交互に向きを変えた段文様になっている。大名物茶入れなどの仕服に用いられている。
   
   大燈金襴【だいとうきんらん】
      大徳寺の開山の大燈国師『宗峰妙超(1282~1337)』の袈裟裂と伝えられている。丹(あか)地の綾に石畳の地紋に細かな霊芝雲文が金糸で交互に織りだされたもの。大名物茶入れなどの仕服に用いられている。
 白地のものは、弟子の徹翁義亨(1295~1369)の名を冠して徹翁(てっとう)金襴という。
   
   大徳寺金襴【だいとくじきんらん】
      白地に石畳を四角い菱花文で繋いだもので地の組織は五枚繻子地。京都の大徳寺に伝来する金襴縫合わせの打敷の総縁にこの裂が用いられている。花文が石畳を釣っているように見えるところから釣石畳金襴とも呼ばれる。足利尊氏が鎧直垂に用いたといわれ、尊氏金襴ともいう。
   
   野田金襴【のだきんらん】
     細かい菱形の地紋を織りだし、花と蝶を上下に組み合わせた文様で、交互に天地を入れかえて一列に配したもの。奈良の春日大社禰宜野田弥兵衛の所持とも、焼失した前田家所持の名物野田茶入の仕服に用いられたためとも、名前の由来は定かではない。
   
   花兎金襴【はなうさぎきんらん】
     後ろを振り返って前足の片方を浮かしぎみにした兎と、雲や花樹や唐草などと組み合わせた花頭形の作土文様が一列に配されている。この花兎文様の大きなものは角倉金襴という。
   
   針屋金襴【はりやきんらん】
     白地または白茶の五枚繻子地に、金糸で大小の鱗(うろこ)文を組み合わせて段違いに織りだされた裂。名前の由来は、桃山時代の茶人針屋宗春が愛用したからとも、「針屋肩衝茶入」の仕服に用いられたとも伝わる。類裂に萌黄地の「井筒屋(いづつや)金襴」、花色地の「権太夫金襴」、浅葱じの「稲子(いなご)金襴」などがある。
   
   東山裂【ひがしやまぎれ】
      東山殿すなわち足利義正が明代の中国に依頼して織らせたと伝えられる裂。三枚綾地や五枚繻子地で地色に、赤、白、紺、縹、緑、紫、萌黄などを用い、一重蔓(ひとえづる)の場合は、小牡丹唐草・中牡丹唐草文様を織りだし梅鉢文や霊芝雲文を添えてあるものもある。二重蔓(ふたえづる)の場合は、地色は文様の輪郭として見せ、地合い一面に入子菱文様を配し、大牡丹唐草文様を織りだした金襴。
 地色や唐草文の違いによって別称があり、萌黄地に一重蔓子牡丹唐草文は「南禅寺金襴」、白地に二重蔓中牡丹唐草文は「本願寺金襴」、縹や紺地を「高大寺金襴」などと称する。
   
  二人静金襴【ふたりしずかきんらん】 
      足利義正が能「二人静」を舞った時の能装束に用いられた裂に由来した名称。濃紫の綾地に金糸で二羽の鳳凰が向かい合った丸文となって交互に配されている。大名物茶入などの仕服にも用いられている。
   
   本能寺金襴【ほんのうじきんらん】
      一面に抽象化させた雨龍の文様が織りだされた裂。本能寺で用いられたか、大名物茶入「本能寺文琳」に添えられたものといわれている。
   
  和久田金襴【わくたきんらん】
     江戸和久田家伝来による名称といわれるが、由来は不明。本和久田金襴・安楽庵手和久田金襴・江戸和久田金襴の三種類がある。全面に鷺、鴨、鴛鴦、魚、蓮、沢瀉、流水などの小文様が金糸で織りだされているものが、多く伝わっている。
   
  筒井金襴【つついきんらん】
      丹地の経三枚綾地に、金糸で一重襷を織りだし、その中に向かい合った螭龍文を配したもの。名前の由来は、筒井順慶(1549~1584)の所持によるものとも、大名物『筒井肩衝』の仕覆に用いられていたからともいわれている。
     
      ※ 表具の事典・茶の裂名鑑など参照

更新2021/01/24